「忘れられない苦い思い出」の目次です
「クマみたい?」その1
私が、初めて「自分の毛深さ」を意識したのは、小学校5年生の一学期、衣替えになって間もなくの頃のことでした。
当時クラスの私の席の隣には、小松くん(仮名)という男の子が座っていました。
ある日、小松くんは、制服のブラウスの半そでから出ている私の腕をしげしげと見て、しみじみとこう言ったのです。
「ケ・ブ・カ・ア」
「え?」
最初は、小松くんの発した言葉の意味がわからずきょとんとしていました。
小松くんはもう一度言いました。
「ケブカア・クマ・ミタイ」
今度は、はっきりとその意味がわかりました。
小松くんは、私の腕が「クマみたいに毛深い」と言ったのです。
がーーーーーーーーんでした。
そして私はその時初めて自分の腕に密生している毛をまじまじと見たのです。
ショックでした。
たしかに小松くんの言うように、本当にクマみたいに毛深かったのですから!!
当時クラスの私の席の隣には、小松くん(仮名)という男の子が座っていました。
ある日、小松くんは、制服のブラウスの半そでから出ている私の腕をしげしげと見て、しみじみとこう言ったのです。
「ケ・ブ・カ・ア」
「え?」
最初は、小松くんの発した言葉の意味がわからずきょとんとしていました。
小松くんはもう一度言いました。
「ケブカア・クマ・ミタイ」
今度は、はっきりとその意味がわかりました。
小松くんは、私の腕が「クマみたいに毛深い」と言ったのです。
がーーーーーーーーんでした。
そして私はその時初めて自分の腕に密生している毛をまじまじと見たのです。
ショックでした。
たしかに小松くんの言うように、本当にクマみたいに毛深かったのですから!!
「クマみたい?」 その2
「ケブカア・クマミタイ」
小松くんの放った何気ない一言がきっかけで、私は自分の毛深さをがぜん意識するようになりました。
考えてみればとても不思議でした。どうして今まで自分のこの毛深さに気がつかなかったのか?
それは、ひとえにそれまで私の「毛深さ」を指摘する人が誰もいなかったおかげだったといえます。
「知らぬが仏」とでもいうのでしょうか、それまでの私は自分の容姿とか格好とかおしゃれとかにもまるで無頓着でした。たぶんまだ自意識というものが芽生えていなかったのでしょう。
だから自分があれほど「毛深い」という衝撃的な事実を認識することなく、
のん気に平和に過ごしてこられたのだと思います。
もちろん、成長するにつれて自意識が芽生え、誰かに指摘されなくても、
いつかは自分自身で「自分の毛深さ」に気づき、悩む時期が訪れただろうとは思います。
その時期が、たまたま隣に座った小松くんによって
思いのほか早く、しかも激的に、もたらされただけだったのかもしれません。
あの時の小松くんには悪意はなく、
ただ思ったことをそのまま正直に口にしてしまっただけだという感じでした。
だから私は小松くんの言葉に傷つきませでした。たしかにその通りだったですし。
それよりも何よりも、突然、自分の目の前に立ちはだかった
「毛深い」という事実に押しつぶされそうになってしまったのです。
小松くんの放った何気ない一言がきっかけで、私は自分の毛深さをがぜん意識するようになりました。
考えてみればとても不思議でした。どうして今まで自分のこの毛深さに気がつかなかったのか?
それは、ひとえにそれまで私の「毛深さ」を指摘する人が誰もいなかったおかげだったといえます。
「知らぬが仏」とでもいうのでしょうか、それまでの私は自分の容姿とか格好とかおしゃれとかにもまるで無頓着でした。たぶんまだ自意識というものが芽生えていなかったのでしょう。
だから自分があれほど「毛深い」という衝撃的な事実を認識することなく、
のん気に平和に過ごしてこられたのだと思います。
もちろん、成長するにつれて自意識が芽生え、誰かに指摘されなくても、
いつかは自分自身で「自分の毛深さ」に気づき、悩む時期が訪れただろうとは思います。
その時期が、たまたま隣に座った小松くんによって
思いのほか早く、しかも激的に、もたらされただけだったのかもしれません。
あの時の小松くんには悪意はなく、
ただ思ったことをそのまま正直に口にしてしまっただけだという感じでした。
だから私は小松くんの言葉に傷つきませでした。たしかにその通りだったですし。
それよりも何よりも、突然、自分の目の前に立ちはだかった
「毛深い」という事実に押しつぶされそうになってしまったのです。
なんとかしないと!!
その後、授業中も、視線はついつい自分の腕に行ってしまいました。
その度に、なんて毛深いのだろう。とため息をつきました。
見れば見るほど濃くなっていっているような気がして怖くなり、見るのをやめようとも思いました。
でも、どうしても気になって見てしまいます。
なんとか目に入らないようにそっと教科書やノートで腕を隠したりもしました。
でもやっぱり教科書やノートのすきまから見てしまうのでした。
「なんとかしなくては」
子供心にそう思いました。だけど具体的な考えは何も浮かびませんでした。(浮かんでくることといえば、魔法であっというまにキレイに毛がなくなる、ある朝目が覚めたら腕の皮がつるりと毛ごとはがれていてスベスベになっている、といったたぐいの現実離れした空想ばかりでした。)
そんな私がただひとつひらめいた具体的な方法が、ずばり、「カミソリ」だったのです。
その日学校が終わって家に着くと、母は、まだパートから帰っていませんでした。
一人で家の鍵を開け、中に入り、まっさきにカミソリを探しました。
家中の戸棚や引き出しを開けて探してみましたが、見つけられませんでした。
おそらく母が、子供の手の届かないところに隠していたのでしょう。
しばらくして帰って来た母に思いきって訊ねてみました。
「おかあさん、カミソリどこにあるのん?」
「カミソリみたいなんなにすんのん?」
「毛、剃るねん」
「何あほなこというてんのん!!毛みたいなもん剃ったら絶対あかん。
剃れば剃るほど濃くなっていくねんで。やめとき大変なことになるで」
母は、おどかすように強い口調で私にそう言ったのです。
私は、その時の母の言葉をうのみにしていまいました。
そして、自分の全身の毛がどんどん濃くなっていき、ついにはジャングルの密林地帯のように 毛という毛がうっそうと生い茂る光景が浮かんできて、ぞっとしたのです。
それで「カミソリ」は、あっさり、あきらめました。
その度に、なんて毛深いのだろう。とため息をつきました。
見れば見るほど濃くなっていっているような気がして怖くなり、見るのをやめようとも思いました。
でも、どうしても気になって見てしまいます。
なんとか目に入らないようにそっと教科書やノートで腕を隠したりもしました。
でもやっぱり教科書やノートのすきまから見てしまうのでした。
「なんとかしなくては」
子供心にそう思いました。だけど具体的な考えは何も浮かびませんでした。(浮かんでくることといえば、魔法であっというまにキレイに毛がなくなる、ある朝目が覚めたら腕の皮がつるりと毛ごとはがれていてスベスベになっている、といったたぐいの現実離れした空想ばかりでした。)
そんな私がただひとつひらめいた具体的な方法が、ずばり、「カミソリ」だったのです。
その日学校が終わって家に着くと、母は、まだパートから帰っていませんでした。
一人で家の鍵を開け、中に入り、まっさきにカミソリを探しました。
家中の戸棚や引き出しを開けて探してみましたが、見つけられませんでした。
おそらく母が、子供の手の届かないところに隠していたのでしょう。
しばらくして帰って来た母に思いきって訊ねてみました。
「おかあさん、カミソリどこにあるのん?」
「カミソリみたいなんなにすんのん?」
「毛、剃るねん」
「何あほなこというてんのん!!毛みたいなもん剃ったら絶対あかん。
剃れば剃るほど濃くなっていくねんで。やめとき大変なことになるで」
母は、おどかすように強い口調で私にそう言ったのです。
私は、その時の母の言葉をうのみにしていまいました。
そして、自分の全身の毛がどんどん濃くなっていき、ついにはジャングルの密林地帯のように 毛という毛がうっそうと生い茂る光景が浮かんできて、ぞっとしたのです。
それで「カミソリ」は、あっさり、あきらめました。
あまりの痛みに耐えながら
それで次に思いついた方法は、毛を抜くということでした。
「毛抜き」のある場所は知っていました。母の鏡台の真ん中の引き出しにあることを覚えていたのです。
ヘアピン入れの中に混じっていた「毛抜き」をこっそり取り出し、それを使って腕の毛を一本、恐る恐る引き抜いてみました。あまりの痛さに涙がにじみました。
それでも、なんとか、がまんしてえいえいっと、抜いていきました。しばらく抜き続けましたが、そのうち痛みのせいで、涙のほかに、おでこにもじんわりと汗がにじんできて、意識もモウロウとしてきました。
なんだか本当にめちゃめちゃ大変な作業でした。
そんな大変な思いをして小一時間。抜き続けたのにもかかわらず、私の腕はほとんど何の変化も見られず毛深いままだったのです。
私は、絶望的な気持ちになりました。
その時ふと何気なく、うつろな眼差しを、自分の足に向けてしまったのです。
そのせいで、さらにとんでもない事実に気づかされることとなりました。
それまで自分の腕にばかりに関心がいっていましたが、足の毛は、腕よりもさらに濃くたくさんしっかり生えているではありませんか!!
あの時の私が、もし英語を話せていたら、きっと、こう叫んでいたことでしょう。
おーーまい、がっ!!
「毛抜き」のある場所は知っていました。母の鏡台の真ん中の引き出しにあることを覚えていたのです。
ヘアピン入れの中に混じっていた「毛抜き」をこっそり取り出し、それを使って腕の毛を一本、恐る恐る引き抜いてみました。あまりの痛さに涙がにじみました。
それでも、なんとか、がまんしてえいえいっと、抜いていきました。しばらく抜き続けましたが、そのうち痛みのせいで、涙のほかに、おでこにもじんわりと汗がにじんできて、意識もモウロウとしてきました。
なんだか本当にめちゃめちゃ大変な作業でした。
そんな大変な思いをして小一時間。抜き続けたのにもかかわらず、私の腕はほとんど何の変化も見られず毛深いままだったのです。
私は、絶望的な気持ちになりました。
その時ふと何気なく、うつろな眼差しを、自分の足に向けてしまったのです。
そのせいで、さらにとんでもない事実に気づかされることとなりました。
それまで自分の腕にばかりに関心がいっていましたが、足の毛は、腕よりもさらに濃くたくさんしっかり生えているではありませんか!!
あの時の私が、もし英語を話せていたら、きっと、こう叫んでいたことでしょう。
おーーまい、がっ!!
なんとかしないと!!前向きに
うっそーー!!足もこんなに毛深かったなんて!!
しばらくは絶望とショックに拍車がかかったようになって、ひどく嘆き悲しみました。
が、よくよく考えてみれば、腕も足も私のカラダの一部でつながっているわけですから、腕が毛深ければ、足も毛深いのは、まああたりまえのことなのだ、と納得し、落ち着き取り戻すことができました。
それにどんなに嘆き悲しんだとしても、毛深さが改善されるわけではないのです。
嘆き悲しんでいるようなヒマがあったら、なんとかする方法を考えないと、前に進まないと、と、当時流行していたスポ根アニメのヒロインを真似て前向きな気持ちになろうとしました。
そして自分を励ましたのです。負けないで、くじけないで、なんとかするのよ。がんばるのよ。と。
で、次に思いついた方法が、「はさみ」でした。
しばらくは絶望とショックに拍車がかかったようになって、ひどく嘆き悲しみました。
が、よくよく考えてみれば、腕も足も私のカラダの一部でつながっているわけですから、腕が毛深ければ、足も毛深いのは、まああたりまえのことなのだ、と納得し、落ち着き取り戻すことができました。
それにどんなに嘆き悲しんだとしても、毛深さが改善されるわけではないのです。
嘆き悲しんでいるようなヒマがあったら、なんとかする方法を考えないと、前に進まないと、と、当時流行していたスポ根アニメのヒロインを真似て前向きな気持ちになろうとしました。
そして自分を励ましたのです。負けないで、くじけないで、なんとかするのよ。がんばるのよ。と。
で、次に思いついた方法が、「はさみ」でした。
とりかえしのつかない失敗その1
さっそくお道具箱から工作用の「はさみ」を持ち出してきて、試しに左のひざ下あたりの毛を何本かつまんで根元ギリギリのところで切ってみました。
うまく切れました!!
何よりもうれしかったのは、痛みが全くないということでした。
勢いに任せて、私は切り進めました。
生い茂っている毛を少しずつ束にして、つまんでは切り、つまんでは切りをくりかえしたのです。
「これなら全部切ってしまえる。なくしてしまえる。」
気持ちが明るくなり、どんどんと切っていきました。
左足が終わると、今度は右足にかかりました。
右足が終わると、左腕に挑みました。腕の場合は、当然ですが、足の時のように手が使えないので、「はさみ」をスライドさせていくつかの毛をまとめてすくうようにして切っていきました。
右腕の毛を切る時だけは、左手で「はさみ」がうまく使えず、苦労したことよく覚えています。
ひと通り切り終えてから、畳に飛び散っている毛に気づき、そのあまりの多さに
超びっくりしました!!
うまく切れました!!
何よりもうれしかったのは、痛みが全くないということでした。
勢いに任せて、私は切り進めました。
生い茂っている毛を少しずつ束にして、つまんでは切り、つまんでは切りをくりかえしたのです。
「これなら全部切ってしまえる。なくしてしまえる。」
気持ちが明るくなり、どんどんと切っていきました。
左足が終わると、今度は右足にかかりました。
右足が終わると、左腕に挑みました。腕の場合は、当然ですが、足の時のように手が使えないので、「はさみ」をスライドさせていくつかの毛をまとめてすくうようにして切っていきました。
右腕の毛を切る時だけは、左手で「はさみ」がうまく使えず、苦労したことよく覚えています。
ひと通り切り終えてから、畳に飛び散っている毛に気づき、そのあまりの多さに
超びっくりしました!!
とりかえしのつかない失敗その2 すっかりトラウマ
私は、畳に散らばった毛を拾い集め、ティッシュで何重にもくるみました。
これほどたくさんの毛が自分の手や足をおおっていたのかと思うと、
なんともいえない気持ちになりました。
そしてこれらの毛を全部自分で切り落としたのかと思うと、ちょっと恐ろしくなりました。
でもその時は、まだ気づきませんでした。
もっともっと恐ろしいことが私を待っていたなんて!!
私は、自分の腕や足を見て、しばらく固まってしまいました。
足にも腕にも、ゴマをくっつけたような無数の黒い点が、散らばっていたのです。
それはまぎれもなく短く切り取った毛の残骸でした。
少しずつ切っていった時の「切り跡」は、さほど目立たず気になりませんでした。
しかしその「切り跡」も、まとまると、なんともおぞましい光景になっていました。
「木を見て森を見ず」とは、よく言ったものです。
あの時の私がまさにそうでした。なんとなんと愚かなことをしてしまったのでしょう。
そのあとのことは、正直思い出すのがとても辛くて、あまり詳しくは書けませんが、
母に、こっぴどく叱られ、学校では小松くんをはじめ、クラスメイトに笑われ、からかわれ、自業自得とはいえ、本当に散々な目に遭ってしまいました。
毛が全部元通りに生えそろうまでの、あの気の遠くなるような辛く苦しく屈辱的な日々を思うと、
今でも胸が痛くなり、涙があふれます。
これほどたくさんの毛が自分の手や足をおおっていたのかと思うと、
なんともいえない気持ちになりました。
そしてこれらの毛を全部自分で切り落としたのかと思うと、ちょっと恐ろしくなりました。
でもその時は、まだ気づきませんでした。
もっともっと恐ろしいことが私を待っていたなんて!!
私は、自分の腕や足を見て、しばらく固まってしまいました。
足にも腕にも、ゴマをくっつけたような無数の黒い点が、散らばっていたのです。
それはまぎれもなく短く切り取った毛の残骸でした。
少しずつ切っていった時の「切り跡」は、さほど目立たず気になりませんでした。
しかしその「切り跡」も、まとまると、なんともおぞましい光景になっていました。
「木を見て森を見ず」とは、よく言ったものです。
あの時の私がまさにそうでした。なんとなんと愚かなことをしてしまったのでしょう。
そのあとのことは、正直思い出すのがとても辛くて、あまり詳しくは書けませんが、
母に、こっぴどく叱られ、学校では小松くんをはじめ、クラスメイトに笑われ、からかわれ、自業自得とはいえ、本当に散々な目に遭ってしまいました。
毛が全部元通りに生えそろうまでの、あの気の遠くなるような辛く苦しく屈辱的な日々を思うと、
今でも胸が痛くなり、涙があふれます。
お年頃、脱毛、ふたたび
それからの私は、失敗にこりて、もうよけいなことは何もしない方がよいのだ思うようになりました。
「毛深く生まれて来てしまったのは、運命なのだからどうしようもない、
現実を受け入れるしかない、あきらめるしかない。」と自分に言い聞かせるようにして過ごして来ました。
この時期を私は勝手に「諦観期」と名づけています。
「諦観期」は、だいたい中学時代のほぼ3年間続きました。
その後、高校に進学してから、おしゃれや美容への関心が非常に強くなり、
再び「脱毛」への意欲がわいてきました。
そして自分でできる範囲の「脱毛」について、いろいろ調べて試してみるようになったのです。
「毛深く生まれて来てしまったのは、運命なのだからどうしようもない、
現実を受け入れるしかない、あきらめるしかない。」と自分に言い聞かせるようにして過ごして来ました。
この時期を私は勝手に「諦観期」と名づけています。
「諦観期」は、だいたい中学時代のほぼ3年間続きました。
その後、高校に進学してから、おしゃれや美容への関心が非常に強くなり、
再び「脱毛」への意欲がわいてきました。
そして自分でできる範囲の「脱毛」について、いろいろ調べて試してみるようになったのです。


